一路(2)

浅田次郎「一路」の続きです。

設定は、美濃の田名部(たなぶ)の地を治める蒔坂左京大夫(まいさか さきょうのだいぶ)は、石高7500石の旗本。
旗本の中には知行地に陣屋を構えて在国する者があって、その実態は大名同然ですから参勤の義務を負っています。いわゆる交代寄合と称する旗本です。

この小説の主人公の一人である御殿様つまり蒔坂左京大夫は、家中では“うつけもの”で通っています。ところが実態は違っていました。

こんな一節があります。

「文句を言えば届くのだが、その文句を口にしてはならぬのである。嬉しかろうがつらかろうが、喜ばしかろうが切なかろうが、ともかくおのれ一身にまつわる喜怒哀楽を毛ばかりも表してはならぬことが殿様と呼ばれる人々の心がけであった

何かはっきりと言おうものなら、大なり小なり必ず、家来たちに毀誉褒貶をもたらしてしまう

早い話が、殿様は木偶(でく)に近いほど名君と呼ばれるのである」 (上巻P144)

これを読むと殿様家業も大変だなと思うのですが(笑)、いずれにせようつけものは仮面なんですね。その仮面が参勤交代の道中で少しずつはがれていく様子がうまく描かれています。そこがこの小説の面白さの一つです。


はっきりと仮面の下の正体が明かされる場面があります。蒔坂左京大夫と牧野遠江守の会話です。

「(牧野遠江守)『いったい、いつまでうつけのふりをなされるおつもりじゃ』  (中略)
(蒔坂左京大夫)『今の世の中、つつけでのうては命をなくしますゆえ』  (中略)
(牧野遠江守)『いかほどうつけを装うたところで、柳営に詰席を占むる三百諸侯は、蒔坂左京大夫こそ余人をもって代えがたい人材じゃと存じておる』  (中略)
(蒔坂左京大夫)『何を仰せになられまするか。ご放言はお控え下されませ』  (中略)
(牧野遠江守)『それなる家来は仰天しておるぞ、家中まで謀(たばか)るとは大した役者ぶりでござるの』」  


ということで、実は蒔坂左京大夫は相当な人物でした。それを家中では“うつけもの”を見事に演じ切りました。
殿様家業を営む同業者(?)相手では、うつけものを演じつつも、どこかで素の部分が出ていたようです。それとも同業者であるからこそ、演じていることを見抜かれていたのかもしれません。


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