さぶ

山本周五郎の「さぶ」を読みました。

今年6月から発刊されている山本周五郎長篇小説全集の第3巻になります。毎月1冊ずつ発売されます(最初だけ2冊セットでしたが)。脚注がついているのが特徴で、知らない言葉の意味がすぐにわかるので助かっています。

さて「さぶ」ですが、作者は週刊朝日に連載前の一文を載せています。
「特にいうべきことはない。やはり貧しい人たちのはなしだ。人間どうしの愛や友情が、ここでは貧しいためにゆがめられ、愛が憎しみに、友情が敵意に変る。人が人を信じられなくなったとき、この人たちはなにを救いに生きるのだろうか。人間は敵意や憎悪だけでは生きられない、ということを読者とともにたしかめてゆきたいと思う」

小説を読む前にこれを読みましたが、特にこれといって感じるものがありませんでした。けれども読後にこれを読むと、しみじみさと同時に物語の重みも感じられるのです。

さぶ

表紙の絵を見てください。
雨の中を丁稚が二人立っています。泣いているのがさぶ、手をかけて話しかけているのが栄二です。

さぶは、「ずんぐりとした軀つきに、顔もまるく、頭が尖って」います。愚図でのろまでどんくさい人間です。
一方、栄二は、「痩せたすばしっこそうな軀つきで、おもながな顔の濃い眉と、小さなひき緊った唇が、いかにも賢そうな、そしてきかぬ気の強い性質を表しているようにみえ」る人間です。(P9)
二人は表具店の職人です。

タイトルは「さぶ」となっているので、主人公がさぶで、かれを中心に物語が進むかとういうとそうではありません。
栄二が主人公なのです。写真を見てください。帯が写っていますね。ぼやけた字ですが、「無実の罪に落とされた栄二が~」とあります。理不尽な扱いを受けた栄二が、復讐を誓い鬱屈とした日々を過ごします。

人生、不条理なものですが、幾多の辛酸をなめた方は共感できる部分が多いと思います。

しかし、小説は暗いままで終わらせてはいけませんね(笑)
大小様々な出来事を通して栄二が変わっていきます。さぶやその他周辺の人のからみもあります。

人生、苦労を通して、見方も深まれば器も大きくなります。これを追体験できます。

そしてラストが意外な展開になります。「まさか!」から「おおっ!」というものになります。ネタバレになるから何も書きませんが(笑)



山本周五郎は質屋での丁稚経験があります。それがこの小説では生きているんではないでしょうか。すごく臨場感があるのです。


最後に、印象に残った言葉を一つ。
「世の中には生まれつき一流になるような能を備えた者がたくさんいるよ、けれどもねえ、そういう生まれつきの能を持っている人間でも、自分ひとりだけじゃあなんにもできやしない。
能のある一人の人間が、その能を生かすためには、能のない幾十人という人間が、眼に見えない力を貸しているんだよ、ここをよく考えておくれ」


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