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神様のカルテ 3

「神様のカルテ」シリーズの3作目です。夏川草介というペンネームで、現役の医師による小説です。

「神様のカルテ」が出て読んだときは、いい小説だなと素直に感動しました。それがこうして3冊目が出てくれるのはうれしいことです。

毎度ですが主人公の栗原一止は、信州にある「24時間365日対応」の本庄病院で働く内科医。
救急科を持つ地方の総合病院の大変さと、そこで奮闘する栗原とその周辺の医師や看護師の様子を描いています。

崩壊寸前と思われるような職務環境ですが、この小説には清流のような清さが感じられます。

そこが不思議なんですね。

kaarute.jpg

医師の当直ですが、「朝から働いて夜もそのまま働かなければならない。のみならず、当直制度の非人間的なところは、ようやく朝を迎えれば、そのまま夜まで働くという点にある」 (P223)
30数時間から40時間連続で働くということですか・・・
「つまりは徹夜明けで朝から胃カメラをやるというのが、前提の制度なのである。もちろん徹夜で検査をして小病変を見落とせば、その責任は医療制度ではなく医師個人に帰せられる」 (P223)

「要するに『先生、先生』と言葉だけは持ち上げておきながら、背後に拳を握りしめ、いつ殴り倒してやろうかと窺っているのが今の医療現場ということなのだ」 (P224)

これを悲惨な医療現場というテーマでルポを作ったとして、書きようによっては読む者の気持ちを暗くさせたり、生々しさを訴えることができるでしょう。でもこの小説はそうしていないですね。これまで読んだ3冊から考えても、夏川草介は栗原一止と同じような職場環境にいると考えられます。困難さを書こうと思えばいくらでも書けるはずです。しかし、この小説は違います。

執筆のどこかの過程で、蒸留または昇華されたのでしょう。

清流のようなと僕が感じるのは、そのあたりが理由でしょう。


シリーズ3作目となりましたが、小説の題材は尽きることがないでしょう。日々の勤務の中で蓄えられた症例や事例、職場での会話や研究会、論文等から得られた情報があって、豊富な引き出しから自由自在に取り出し、組み合わせ、脚色してストーリーを作っているのでしょうね。小説の一つ一つの場面にリアリティがあって、しかも自然です。

しかもこの「3」は、深みを増しました。



「3」は「2」と同じ構成になっているところがあります。
職場である本庄病院に入ってくる人と出ていく人です。「2」では同級生が入ってきて、上司が出ていきます(亡くなります)。「3」では腕利きの女医がやってきて、同級生が出ていきます(大学病院へ行く)。
どちらも入って来た医師が問題を起こします。これが栗原に少なからず影響を与えるのですね。それが「3」の終わりに栗原を新たな道へ導く原因の一つとなります。
このあたりのところが山であり、読み応えあるところです。



小説に何度も出てきますが、栗原は夏目漱石に心酔しています。筆者の夏川草介というペンネームからわかるように筆者の投影でしょうね。
気になったのが、同じ言葉が何度もでてきたことです。5回ぐらい(だったかな?)引用されています。

あせってはいけません。ただ、牛のように、図々しく進んでいくのが大事です

何を意味するのか?

考えているのですが、いまだ答がでていません。

ちょっと棘のように引っかかっているのです。



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